2020 年 33 巻 4 号 p. 156-163
滞留時間は水循環研究における中心概念の一つとされるが,しばしば類似する用語との間で混乱が見られる.本稿では,滞留時間に関する諸概念を再検討し,各用語の定義や様々な水文システムにおけるそれらの特徴を示す.そのうえで,「滞留時間」という用語を「入れかえ時間(=慣用滞留時間)」「年代」「平均年代」「通過時間」「平均通過時間」といった用語の総称として用い,数値を示す際にはこれらの区別を明確にすることを推奨する.また,推定方法と概念・用語の対応関係を明らかにし,推定結果を解釈するうえでの注意点について述べる.最後に,滞留時間研究における今後の方向性として,トレーサーと数値モデルの複合利用,ならびに簡易かつ定義が明確な滞留時間指標の適切な選択と多面的応用,の2点を強調する.