日本水文科学会誌
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総説
山岳域の同位体マッピング:現状と展望
山中 勤 鈴木 啓助脇山 義史岸 和央牧野 裕紀丸山 浩輔加納 正也馬 文超正木 大祐杉山 昌典山川 陽祐吉竹 晋平
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2016 年 46 巻 2 号 p. 73-86

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抄録

降水アイソスケイプ研究の進展とその基礎及び応用について,特に山岳地域に焦点を当ててレビューした。中部山岳地域の降水アイソスケイプは,高度効果と内陸効果を考慮した比較的単純なモデルで地図化可能であることが最近の研究で示されている。しかしながら,定常的なアイソスケイプの正確なモデリングには降水同位体比の年々変動に伴う誤差を減少させるため,少なくとも数年以上のモニタリングが必要である。また,既往文献で報告されている(高度変化に対する)同位体逓減率の値は,雪氷圏のデータが偏重されてきたことや内陸効果との重複によって過大評価されている可能性があることに注意が必要である。山岳域の降水同位体マップはこれまでに,地下水・湧水涵養標高の広域推定,ハイドログラフ分離の空間的拡張,大流域における滞留時間推定や河川流出・地下水流動モデルの高度化,ならびに流域規模の蒸発散分離などに応用されてきた。これらの進歩は,高山環境変化の検出や流域管理のための科学基盤の提供といった点において特に有望と考えられる。今後,同位体マッピングの時間解像度向上や生態学・人類学・法科学研究への応用における技術革新が,継続的な長期モニタリングとともに重要となるだろう。

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© 2016 日本水文科学会誌
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